「文芸おぢや第40号」入賞者紹介
「文芸おぢや第40号」入賞者紹介
「文芸おぢや第40号」にご応募いただいた作品の中から、審査の結果、次の方が入賞されましたのでご紹介します。
(敬省略、ペンネームの場合あり)
短歌の部(応募作品数260首)
市長賞
澄海(愛知県)
「ひじ掛けの無い椅子を立ち一礼す定年の日が静かに終わる」
教育長賞
本間純子(長岡市)
「土手を這ひ草刈るAIロボットに指令出してる中年男性」
図書館長賞
水野結雅(愛知県)
「ビーカーに水半分を入れてみてもう半分に秋の香つめる」
俳句の部(応募作品数524句)
市長賞
佐藤憲(新潟市)
「黒ずみし実の摘心や原爆忌」
「人真似の鴉も茅の輪潜りかな」
教育長賞
小田和子(兵庫県)
「少年の吹くリコーダー星月夜」
「秋の水切り裂くやうに鯉の鰭」
図書館長賞
桑原稔(神奈川県)
「さみしさのかたち日暮れを酔芙蓉」
「うつせみに濃き影少女らの疾駆」
「炎天に水のむカインの血のながる」
川柳の部(応募作品数391句)
市長賞
黒飛義竹(広島県)
「肩書が取れれば馬の骨になる」
教育長賞
山田明(千葉県)
「東京はどうだと父が酌いでくれ」
図書館長賞
沢田正司(愛知県)
「無視されて心の傷が深くなる」
詩の部(応募作品数41編)
市長賞
南雲和代(東京都)
「跨線橋」
県境の古い村は深緑の底に沈み
けだるい夏の眠りをむさぼり続けていた
連なる山脈の狭間にヒトの姿はまばらで
駅舎は子ザルたちの遊び場
子ザルは両手に青い柿の実を握り
かじりついた苦さに
お手玉のように空に放り投げ上げる
空は宙に青い柿を映し
レオ・レオニの絵本のような黄色を探し
若い稲穂を揺らす田圃の風になる
いにしえの国鉄の面影を残す
玩具のような三両の電車は
地底から顔を出し
誰もいない長い長いホームに身体を横たえた
降りる人も乗る人もいない
大正期に創られたという跨線橋を登ると
閉ざされた近代と現代が扉を軋みながら開く
村に降りる扉と
外資系のリゾート地に開く扉
合理化のために無人になった駅舎に残された
古い跨線橋の扉は冬だけ両方つないだ
年老いてからは決して渡ってはならない
険しく長い鉄の橋
姨捨山のような限界集落に
ひっそりと生きている老いた人たちの
肺臓を狙うという危険なウイルスを
都会からの電車が運ぶと忌み嫌われる交通路
疲弊していく村に
環境汚染のため温暖化し南方から
北上を続けるクマゼミだけが
朝から錆びた跨線橋に鳴く
改札口で固い切符に
鋏を入れていた国鉄職員は
頭をもたげた大蟷螂に職を委ねた
ホームの駅長代理は熊に変わった
若い嫁だった祖母は
泣き続ける伯父を負ぶい
めずらしい汽車を見に行き跨線橋を渡った
明治生まれの祖母はいつのまにか
記憶が曖昧になり徘徊を繰り返し
跨線橋を渡り
ルソン島で玉砕した伯父のもとに帰った
誰も住まなくなった家は
異国から来たハクビシンの家族が棲み
年老いた村も人も
新しい社会に捨てられ
村は原野の戻ろうとしている
近代遺産という国のお墨付きの跨線橋だけが
雪の重みに耐えて近代と現代の架け橋になり
生きるものと死んだものを繋いでいる
冊子「文芸おぢや第40号」について
図書館で無料配布しています。ご希望の方は直接お越しいただくか、下記までご連絡ください。数に限りがありますので、なくなり次第終了とさせていただきます。